CSSレイアウト講座 雑記帳 【天狼の系譜 ~幕間~】 星に願いを [1] 忍者ブログ

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【天狼の系譜 ~幕間~】 星に願いを [1]

 痛くて、辛くて、苦しくて。

 己が身を苛むそれ等に必死で耐える。

 あまりの痛みに息もまともに出来なくて、荒い呼吸を繰り返す。

 目をつぶれば涙が一筋零れ落ちた。

 それは生理的なものなのかそれとも痛みからのものなのか、余裕の無い身には判別出来はしない。



 朦朧とした意識を呼ぶ声がする。

 誰のものかも良くわからないその声に励まされ、何とか必死に息を整えて――…

































「まったく……今まで、此処に来たヒトは沢山居るけれど…君ほど無茶をしたヒトはそうそう居ないよ?」



 耳朶を打つ、穏やかさの中に呆れの色を強く滲ませた囁きに。

 ぱちりとフィアは瞼を開いた。



 視界に広がるのは、仄暗い闇とその中にちりばめられた無数の星の煌めき。時折思い出したように尾を引き流れる夜空の星の向こう側には、覆い被さって来るかの様な蒼い蒼い満月の輝き。ああ今仰向けになっているのか…とそこまで把握した所で、自分の身体が柔らかい何かに寝かされている事に気付く。そっと掌を這わせれば、それはどうやらベッドか何かの様だった。肌触りも柔らかい絹で編まれたかの様なシーツはとても気持ちが良い。

 つい先程まで無機質な部屋の天井を見ながら延々と続くかと思われる様な強烈な痛みに、辛さに、ただただ耐えて居たのが嘘の様だ。そういえば、身を苛んでいたソレ等諸々の欠片すら感じなくなっている事に、今更ながらに驚く。視界に見えるものすら変わってしまっているし、一体自分はどうしてしまったというのだろうか。



「ぁ…もしかして〝天国あの世〟とか、かな……何だか想像していたのと随分違うケド」

「いや、あの、〝天国ソレ〟は流石に無いから。勘違いしないで」



 ぽつりと呟いた独り言には、予想外な事に返答が返ってきた。あおむけの状態で頭上の方から聴こえて来たその声は、勘違いで無ければ先程も聴こえたものだった。ゆっくりと身体を起こし振り返った先には、腕を組み、椅子に腰かけ足を組んだ様な体勢で何も無い虚空に浮かぶ一人の青年の姿がある。その身長よりも長そうな夜色の髪に、白磁の肌。軽く伏せられた紫紺の瞳に、この世のモノでは無い気配を感じさせる不思議な光を宿す青年は、フィアの視線を受けてにこりと微笑む。



「やぁ、初めまして。気付いた様で何よりだよ…フィア=マジョリス。もし意識を取り戻さなかったら、と考えて流石にヒヤヒヤしていた所さ」



 こんな人間的な気持ちになったのは随分と久し振りだ、と笑う青年にぼんやりとした思考の中でフィアは首を傾げる。自分の名を知るこの人は誰なのだろう。どうも悪いヒトでは無さそうだが記憶にない人物だ。というか、まず自分は今ドコに居て何故こんな状態になっているのだろう。いや。それ以前に、もっともっと重大でとても大切な事が在った様な――…

 そこまで思考を巡らせたところで、今まで霞がかっていたかの様な意識が急激に復活する。自分が此処で覚醒する直前まで、どういう状態だったのか。どういう状況にあったのか。その全てを。



(嗚呼そうだ…そうだった! 何で忘れてたんだろう…!)



 思い出せば居ても立ってもいられなくなった。

 慌てて寝かされていた寝台(これも青年同様空中に浮遊していたらしい)から完全に身を起こし、そこから白い床らしきものへと降り立てば、ふよふよ浮かぶ青年へと詰め寄る。詰め寄るだけに収まらず、思わずその肩をがしりと両手でもってホールドすれば流石に予想外の行動だったのか。ギョッとした顔の青年へと、今一番気になる事を問う。



「…赤ちゃんは! ボクの赤ちゃんは大丈夫なのコレ!!?

「うあわうあうあゆゆ揺らさないでちょっとおお落ち着いて……っ!?」

「これが落ち着いていられないよねぇってば天国じゃないなら今コレどうなってるの!!?」

「わわわ、わかった、わかったから…説明するからお願いちょっと離してそんなに揺らされると流石にうぷ…っ

「へ…っ!? あああごごごめんなさい大丈夫!?」



 普段は話し声は愚か殆ど物音すらしない白の塔バベルその最上層に、いつになく騒がしい声が響き渡った。





※ ※ ※






「……死ぬかと思ったよ……まぁ、死なないけどさ…」

「ご、ごめんなさい…! つ、ついつい…こう、ヒートアップしちゃって……」



 この塔の主だという青年のげっそりとした表情と呟きに、つい先程強引かつ思いっきり頭部を前後にシェイクする…というなかなかキツい目に合わせた張本人はというと何度も何度も頭を下げるしかない。そんなフィアに哀れむ様な目を向ける青年は、気にしないでと力無く笑った。



「……まぁ、君の気持ちもわからないじゃないさ。まさか出産中・・・に意識が飛んで、急にワケの分からない場所に居る自分に気付いた…なんてシチュエーションで、落ち着いていられるヒトなんて居ないだろうしね」

「でも悪いことを……ホントに大丈夫なの?」

ヒトだった頃の記憶・・・・・・・・・のせいで軽くダメージを受けていただけさ。本来、肉体すらない身なんだからね。あんな事で気持ちが悪くなったりはしないんだけど」



 記憶している情報に引き摺られすぎたかな、と肩を竦めるその顔色は確かに健康そうなものでフィアはホッと胸を撫で下ろす。いくら動揺していたとはいえ、自分のやらかした事は紛れもない勘違い大暴走だ。今思い出すだけで恥ずかしさで死ねそうになる。だいたい、天国とかホント何を考えてたんだろう寝惚けてたのかもしや。しかも口調もうっかり素が出てたし。思い出してしまったことで、自然と恥ずかしさに熱くなる頬を両手で押さえて小さくため息をついた。



「……で、状況は把握出来たかな?」

「うん、それはもう大丈夫」



 一応確認するけれど、と前置かれた言葉には頷く。



「此処は世界の狭間にして世界の裏側。この白の塔バベルは、私が暮らす本来の世界とは違う時と空間に在るんだよね。そして貴方は、対価と引き換えに願望ノゾミを叶える魔人……と。ココまでは間違って無い?」

「そうだね」

「…で、私の精神だけが今は白の塔に来ていて、肉体カラダは本来の世界で絶賛出産中。此処での時間経過は、どれほど経とうとも私の世界の数秒にしかならないから安心していい…と」

完璧パーフェクト。理解が早くて助かるよ」



 満面の笑みでパチパチとわざわざ拍手までされると流石に気恥ずかしい。

 頬など掻きつつ視線を反らしたフィアは、ふと思い出したまだ解決しない疑問点に思考を巡らせた。



 現状は既に理解したし、此処がドコなのかもよく分かっている。今ひとつ確証は無いが、『彼』の説明を信じるならばこんな場所に自分が居る理由も想像はつく。

 つまりは塔の主を自分が惹き寄せてしまった・・・・・・・・・から…ということなのだろうか。そして残された身体は勿論だが、子供にも危険は多分ない。しかし、そうなると気になってくるのが帰還方法だ。『彼』曰く、自分の前に居る権利を無くせば自動的に帰還する…という事らしい。つまりは、塔の主が叶えるにたる願望ノゾミが果たされる、或いは願望ノゾミを叶える権利を放棄するかの二つに一つという事だ。

 しかし、



(…私の願望ノゾミ、って……何を願ったのかな……?)



 考えてはみたが思い当たる節が無くて、フィアは首を傾げる。まあ、だいたい出産とかいて修羅場と読む切羽詰まった状況の中で、まとまった思考でモノを考えられていたとは思えない。となると、もはや無意識の領域に踏み込む話になってしまうのではないか。しかし無意識を自覚出来たらそれはもはや無意識とは言わない訳で…さて、こんな場合はどうなるのだろう。

 まあ聞けばきっとわかる事だ。そう結論付けて顔を上げたフィアは、しかし問いの言葉を飲み込んだ。考え込んでいた間もどうやら自分を見詰めていたらしい『彼』のその表情から、声をかけるのを躊躇うほどに深刻そうな気配を感じたからである。先程までの笑顔が嘘か幻だったかの様なその険しい顔のまま『彼』は口を開く。



「――――…分からないな」



 誰に対してというより半ば独り言に近い声音のそれは、尚も紡がれた。



「君という存在がココにあるという事は、つまりは大なり小なり何らかの願望ノゾミが在る筈。僕との邂逅というのはそういう理由・・・・・・が無ければ成されない。初回であるならば、それは絶対であり確定事項だ。……それだというのに、何故……?」



 何をそんなに不思議がっているのだろう。

 首を傾げるフィアを見据えながら、『彼』は囁く様に疑問を呈した。

















「何故、君の願望が視えない・・・・・・・・・…?」


>>To be continued…




※あとがき※

 久々の更新。
 正直難産真っ最中といった感じだけれど…頑張ろう。(苦笑)

 そんな訳で今回は『天狼の系譜』の番外編。
 幕間、とある様に補足とか複線回収とかそういう何かです。

 白の塔編の主人公である少年と同じ名字を持つ女性・フィアと、『彼』の邂逅話。
 この出逢いが後々にどんな影響を与える事になるのか。

 その辺りは続編にて。


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