CSSレイアウト講座 雑記帳 『夜空屋』店主の日常 ~電話~ 忍者ブログ

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『夜空屋』店主の日常 ~電話~

 ジリリンリン。
 電話のベルが鳴る。

 けたたましい音を立てて鳴っているのは壁掛け式の妙に場所を取る電話だった。アンティークショップか或いは民俗資料館辺りに行かないと見る事も無さそうなそれは、俗にデルビル磁石式壁掛電話機と呼ばれ明治から昭和の初め頃まで使われていた電話それその物である。昭和から数えて既に数十年は軽く過ぎている現在では、最早珍しいどころか文化財扱いされてもおかしくない様な代物だ。
 本来、電話の交換手がいなければ電話としての機能が成り立たない筈のそれが現役で動いているという異様な光景。しかし、それもこの店の中ならばその程度の事で騒ぎたてるまでも無いと肩を竦めるか、或いは店に満ちている混沌の一部分にしかならないと誰もが言うだろう。

 東京湾海上独立行政区戌亥ポートアイランドは学生区のほぼ中心地に店舗を構える、よろず取扱店『夜空屋』。
 これは、このポートアイランド内で最も謎が多いとも噂される店での、ある日の出来事の記録である。


※ ※ ※


 ジリリリンジリリリリン。

 けたたましく騒がしい音が響きだして、さてどれ程たった事だろうか。
 記憶が間違いでなければそろそろ5分は軽く経過している。諦めて切れてもおかしく無いだろうに尚も鳴り続ける電話のベルに、流石にウザったくなってきたのかカウンターの隅で古書を読みふけっていた『夜空屋』店主ルカは顔を上げた。度の薄い銀縁眼鏡の向こう側では蒼碧の瞳が不機嫌げな輝きを宿し、鳴り続ける電話を睨み付けている。勿論、そんな事をした所で音は止まないのは言うまでも無い訳だが。


「……まったく、誰ですか。面倒ですねぇ」


 よっこらせ、とばかりに立ちあがったルカは着物の裾を翻して電話の元まで歩み寄った。本体の横に引っ掛けられている受話器を手に取ると耳に宛てれば、本体の送話器へと一言声を放つ。


「……只今、『夜空屋』店主は留守にしております。ピーという発振音が鳴りましたらメッセージをお願いします」

『何が留守だよオイ居留守使うな居留守を』

「…ピー」

『お前無視とかいい加減にしろよ』

「煩いですねぇ……私は忙しいんです。それなのに5分以上も延々と呼び出し続けるとか、貴方、私が出ない時点で嗚呼忙しいのかなとでも思うとかもう少し空気を読んだら如何ですか?」


 堂々と居留守をしておいてこの態度である。とはいえ相手もそれには慣れているもので、台詞の割に口調は面白がる者の其れだった。更にルカのわざとらしくため息まで付けての言葉に対し、相手はハッと鼻で笑う様な音を立てるとからかい口調で返してくる。


『良く言うよ。どうせアレだろ。面倒臭がりのお前のことだし、売り物の古本でも読みふけってたんだろ? 暇つぶしに店やってる…とか堂々と手紙に書いて寄越してたような奴が、忙しくなる様な商売してる訳無いだろうが。というかこの電話、留守電ついてるならもっと早く反応しねーとおかしいだろ。居留守するにしたってもう少し考えろよ』

「そんな下らない事に知恵を絞りたくなぞありません……まったく、相変わらず傍迷惑な所は変わりませんねぇ…――蒼【アオ】」

『蒼【アオ】じゃねぇって何度言ったら分かるんだよお前…蒼【ソウ】だよソウ! ……まあ良いや。何年振りだっけ? うちの息子が生まれる前だったか最後にこうやって声で話をしたのは』

「そうですねぇ…十八、十九…まあそのぐらい前じゃないでしょうか」


 記憶が確かならば結婚式には呼ばれて参加した覚えがあるが、その後「子供が産まれました」的な葉書を最後にお互いに会った事も電話をした事もなかったように思う。せいぜい、この『夜空屋』を構えた際に店の住所と連絡先を葉書で送ったぐらいだ。とはいっても其れも仕方が無い所はあった。何せ自分はそれまでの定住地を捨てて旅暮らしをしていただから。この戌亥ポートアイランドに腰をおろしてからはすっかり動く気も失せては居たが、あの当時はこんな風にじっとしていては退屈で死ねそうだったのである。
 それはきっと、それまで無駄に何年もの間自分にひっついてきていた煩い上に目障りで邪魔っくさい上に人をよくよくトラブルに巻き込んでくれていた阿呆な知人(『友人』では無い。断じて)が、どこぞの家に婿養子に収まったが為に急に周囲が静かになってしまった反動だったのだろう、と今ならば分かる。あの頃はなんだかんだで退屈だけはしなかったのだ。それを楽しんでいなかったといえば嘘になるだろう。だからこそ、その後の妙に静かで退屈な生活は面倒な事より何よりも退屈を嫌う自分としては願い下げだった。それ故の旅暮らしだったのだ。
 …とはいっても、それをこの電話口の馬鹿に告げるつもりは一欠片も無い訳だが。


「……で、そんな長い間音信不通だった貴方が急に何事ですか。先に言っておきますが金銭の工面はしませんよ。貴方の場合、平気で踏み倒しますし」

『音信不通ってそりゃ、お前の方がよっぽど……ってか、お前俺の事どう思ってんだよ!? ぁ、いや言うな。どうせ、ありとあらゆる罵詈雑言で罵りにかかるのは分かってるんだよこの万年引きこもりの陰険鬼畜ロン毛眼鏡』

「貴方の方が私を罵っているじゃあないですか。奥様に訴えますよ」

『……ごめんすいません申し訳ないそれだけは勘弁』


 先の勢いはどこへやら。一気にしおらしくなった電話向こうの蒼の様子にクツクツと笑う。相変わらずの恐妻家(本人は愛妻家だと言い張っているが)っぷりは見事なものである。付き合い始めの頃も随分と尻に敷かれていたが…更にしっかり躾けられている様だ。とても良い傾向だと思う。元々、躾のなっていない犬コロの様な奴ではある。そのぐらいの扱いが丁度いい。


「……で、結局どうしました。貴方が私に連絡をよこすだなんて珍しい」

『俺もお前にだけは連絡するまいと思ってたんだけどな、正直。お前性格悪いし』

「その御言葉そっくりお返ししますよ…で、ご用件は?」

『ぁー……えーっとだな……』


 口籠る相手の様子に、ルカは思わず怪訝げな表情(蒼は何事もはっきりきっぱり言い切るタイプだ)を浮かべる。珍しい事もあったものだ。明日は大嵐かもしれない。そんな此方の内心に気付く訳もなく、あーだのうーだのと呻いていた蒼はようやっと本台を口にした。


『実は、息子を預かってほしいんだ。お前の所で』

「………は?」


 今、何と言った?
 思わず聞き返したルカに、蒼はといえば「聞こえなかったか? えぇとだから、うちの息子をお前の店で預かってほしいんだよ。何とかマップってネット経由で航空写真見れる奴があったがさ、あれで見たお前の店結構広かったし大丈夫だろ?」とあっさり返してくる。それはもう気楽な口調で。軽い頭痛すらしてきた気がして思わず額に手を当てた。


「貴方……簡単に言いますね」

『何だよ。無理じゃないだろ?』

「無理じゃあないですよ確かに。でも何だって貴方の息子を私が預からないといけないんですか」


 十何年振りかに連絡してきたかと思えば、自分の所の一人息子を預かれなんて言ってくる親は普通居ない。だいたい、その息子とやらとも生まれてから一度も顔を合わせた事すらないのだ。父親がこう言っているとはいえ、急に知らない人の家に長期滞在することになる息子の気持ちはどうでも良いのか。いや、それよりも。


「……というか、何でまた私の所なんです。貴方、今は英国に婿養子の身でしょう。息子さんも年齢的に考えると学生でしょうし……普通なら其方の学校で勉学に励んでるんじゃないんですか?」

『それがな。本当は俺もそのつもりだったんだがさ……何がどうしてこうなったのか…何か、高校からは日本の学校に行く、とか言いだしてさ。しかもそれがもう合格通知まで貰ってるって言うんだよ。俺は初めて聞いた時本気でビビったぜ。これが新手の反抗期か…とな! 反抗期らしい反抗期がなかった弊害かも知れねぇ……』

「貴方……放任主義にも程がありますよ? そんな大事な話、何で決定するまで知らないんですか」

『反対されそうだったから黙ってたらしい。まあ確かに否定はできないが』

「成程、子離れ出来ない親馬鹿具合に愛想を尽かして息子さん自身から離れてくれるという訳ですね」

『ち、ちっげぇよ!? 親馬鹿じゃねーし!?』

「………最後に添い寝を許してもらえたのは何時ですか?」

『確か息子が13の夏だったかな……お父さん暑くて苦しいから離れてというかもう一人で寝れるから本当に…とか言われた時には俺はもう、こう、泣いたね! 泣いてたらフィアに何でか一本背負いで床に叩き付けられて、気がついたら朝だったけどな』

「フィアさんは、本当に貴方みたいなのの何処が良くて結婚したんでしょうねぇ……人生の選択を間違った、とか思ってないといいですが」


 どこからどう見ても立派な親バカです本当にありがとうございました。そう言っても良い具合の見事な親馬鹿っぷりに聞いているだけで疲れてしまいそうではあった。だいたい、一人娘に対して親馬鹿な父親というのは良く聞くが一人息子に対してそれはどうなのか。…まだ会った事も無い彼の息子とやらの日々の苦労が、言われずともだいたい想像出来る気がするから困る。


「……しかし日本の学校と言いましてもね、一体どこに行くんですか。馬鹿だ馬鹿だと罵られまくっていたお馬鹿な貴方でも流石に知っているでしょうに。此処はとても特殊な場所なんですよ? 本土とはほぼ切り離された、日本の中にある一つの独立区の様なものです。出入りも簡単なものではありませんし」

『それは問題ねーだろ……息子が行くのが、そこの人工島にある学院のひとつだって話だから』

「何ですって……?」


 無茶な事を言い出した時からまさかとは思っていたが、本当にこの人工島に存在する十二学院のどれかに留学すると言うのか。それはつまり、何らかの特殊な能力を持っているという事だ。この島の学院が求めているのは異能の持ち主。ただ成績が良い頭が良いなどといった世間一般の学校進学に関する重要事項など、殆ど意味を成さないのが此処だ。入学申込の時点でその辺りはしっかりと見られている筈…と言う事は、合格した事=求められるに足る異能の持ち主という証拠でもある。


「ちなみに、一体何処の学院に?」

『長月学院、だったかな……そんな名前の所に行くらしい』

「……それならば専攻は召喚やそれに関わるものになりそうですね……」


 〝古今異形交渉班【ここんいぎょうこうしょうはん】〟長月学院。十二学院の中でも、異形の存在を相手取った対話・交渉・契約・拘束、そして使役に関わる者が多く集う学院だ。自然、それ系統の技能が求められる場でもある。


「確かに貴方自身の能力や、貴方の婿入り先の事を思うと…間違っては居ないんでしょうが」


 電話先のこの男――神代蒼【クマシロ ソウ】は、少々特殊な体質の持ち主だった。
 簡単に一言で言うならば、『人外を問答無用で引き寄せ惹きつける』という珍妙な体質をしていたのである。本人曰く、一種のフェロモンの様なものとの話だったがそれを生かして独身時代はフリーの使役師やら退魔師やらをやっていたりもしたらしい。元々の実家が神職だったか修験者だったかと言う事もあり相性も良かったのか、随分と腕もよかったという話は聞いた事があった。
 …ふと、実際この男と自分が出会うきっかけもその体質に関わるゴタゴタだったりしたのを思い出す。正直あまり思い出したくは無い記憶だ。直ぐに箱にしまって鍵をかけて何処とも知れない場所に捨ててしまいたいぐらいだが、こればっかりはどうしようもない話だった。嗚呼全く忌々しい。とはいえ、そんな仕事の関係で召喚師の家系に生まれ育ったという現在の奥方――フィアに出会い恋愛の末結婚したというのだから、世の中、何がどう幸いするかわからないものである。


「それにしても……子供には普通の一般人的な生活をさせてやる、って息まいていませんでしたか? 結婚前に。義理の御父様や御母様に猛反発でもされましたか?」

『いや。それはない。実際その話をしたら結構乗り気でな。やっぱりなんだかんだで危険なもんだろ、召喚師とかそういう系統の職業は。何も仕事とかが無かろうが日常的に人外と接する分、何らかのトラブルが起きる可能性は高いからな。だから俺やフィアの代で終われば幸い、みたいな話にはなってたんだよ。だいたい、今の時代異能の持ち主を大々的に募集する奴なんてそこの戌亥の理事長だっけ? そいつらぐらいなもんだろ』

「それは否定しませんね。確かに間違っては居ませんし」

『……まぁ、でもな。これはアイツにとって幸いだったのかそれとも災いだったのか……俺の体質が、結構遺伝しててなぁ。俺ほどじゃないが見えるわ引寄せるわ惹きつけるわ…ってな状態で、もう、そういう世界からすっぱり切り離してってのは流石に難しい……というより逆に危険だという話になっちまった訳だ』

「成程……それはなかなか、厄介な話ですね」


 ろくでも無いものを遺伝してしまったという彼の息子には同情を禁じ得ない。
 術師としての才覚…というだけなら別に問題はないのだ。教えなければ才能は伸びない。例え其方の能力に長けていたとしても、別に関わらせなければそっちの世界を知る機会は皆無に等しいだろう。だが、それだけでは無くフェロモン体質まで多少とはいえ遺伝していたとしたら話は別になる。
 蒼と渋々ながら行動を共にしていた時分、彼の周りには常に望もうと望まなかろうと異形の姿は絶えなかった。彼の場合はそういった存在に対する対策法を知っていたから平気な顔をして対応していたが、もしも知らせずに同じ体質の息子を育てていたとしたら……それこそ狼の群れに無力な子羊を放りこむのと大差ない状況になりかねなかった事だろう。


「では結局、それ系の技能を教えていたんです?」

『嗚呼、元々フィアの実家は召喚師だったから教材と召喚相手だけは事欠かねぇしな。本人も結構相性がいいのか筋が良いのか、これがまた呑み込みが早くて……今じゃあ下手な新米召喚師より腕前は上だぜ。……それがどうにも、こっちの召喚師組合にまで伝わってたみたいでよ。そこの組長に頼まれたとかで、余計な事しぃの俺の兄貴が戌亥ポートアイランドにある学院の生徒募集資料とか書類とか諸々を息子に郵送してきやがってたらしくて』


 それがなかったら日本に行くとか言いださなかった筈なんだぞとりあえず元凶の兄貴はボコにしといたが……とあっさりのたまう様に、相変わらず仲の良い兄弟ですねぇとだけ返しておいたが。此処の兄弟は何時だって『ボコり愛』とでも言えば良い様な間柄だ。喧嘩するほど仲が良いのである。少なくとも十年近くたってもその関係性は変わっていない様子だ。
 そういえば蒼の実家は北陸の方だったか。そしてその兄とやらは家業を継いでいると聞く。日本に在住しているならば、確かに戌亥ポートアイランドに関する諸々の資料やら書類やらは手に入れやすい事だったろう。


『そんな訳で今更俺が反対した所でどーにもならねぇんだわ。…となると、やっぱ良い環境で生活して欲しいってのが親心だろ』

「……その理屈は間違ってませんが、ならば学生寮に入れれば良いじゃないですか」


 それこそ本土からは勿論だが世界中から学生が集うこの人工島の各学院には、それぞれにそれなりの規模の寮が用意されていた筈だ。それが無くても、学生用に格安の下宿なども学生区には点在している。普通ならばそこから通うのが妥当じゃなかろうかとも思うのだが。


『それが出来たら一番なんだろうが……さっき言ったろ? 体質だよ、体質。あれのせいで、望まなくても妙なものが寄って来るんだよアイツは。お前も見た事あるだろ? 俺の時みたいにな』

「………」

『血が薄まってるからか、それとも他の理由かは知らない。でも息子は俺よりもまだ引寄せる力も惹きつける力も弱いから、マシっちゃマシだ。でもこっち側にいる時と違って日本に行っちまったら、そういった有象無象に一人で対処しなくちゃならんだろ。流石にそれは手に余るだろうし、何よりまだまだ未熟だからな…下手して他の学友を巻き込んでも問題だ。となると……一番安全なのはお前の側に置いておくことだと判断した訳だ』

「……成程。私も買い被られたものですねぇ」

『…はっ、何言ってやがるんだか。てめぇが睨んでりゃ、大体の妖かしなんざ手も足も出せなくなるのは真実だろうが』

「さて…どうでしたかね」

『……まァ良い。とにかくそういう訳なんだよ。…置いてやってくれねぇか?』


 先程までのどこか軽い口調が一転、真面目なものへと変ずる。この男がこうやって真面目に言ってきた時は大抵、反対してもどうにかして押し切られるのが関の山だ。だとしたら反抗するだけ面倒ではあるし時間の無駄ではある。そうなると…出せる結論はたった一つしかないではないか。我慢も遠慮もせずに大きくため息を吐く。


「……分かりました。お預かりしますよ。…とはいえ私は結構放任主義ですがそれで構わないんでしょう?」

『嗚呼、十分だ』

「言っておきますが、勿論これは貸しにしておきますよ。何時か返して下さいね」

『…助かるっ! いやぁ…流石俺の心の友だな!』

「どこのガキ大将の台詞ですかそれは……やれやれ、貴方と関わると碌な目に会わない」

『そう言うなよ。十年以上の俺たちの友情はどうなるんだよ』

「何時、何処で、誰が、貴方を友と認めましたかね?」

『ひ、ひでぇ……!?』


 キーン…コーン…カーン…コーン…。
 ふとそこで遠くから響いてきた音に、店の入り口付近にかかっている柱時計へと視線を向けた。時計の針はちょうど下校時刻の頃合いを指示している。もう暫くもすれば、学校帰りの学生が買い食いなり寄り道なりの為に現れる事だろう。


「……さて、そろそろ失礼させて頂きますよ。蒼。儲け時がきましたので」

『お前の性格上、まともに店主やってんのが想像つかないんだが…本当に儲かってんのか? ……まァ良いや。また詳しい事は夜にでも電話する』

「そうして下さい。では、また夜に」


 チン――…という音を残して電話は切れた。
 受話器を本体に戻しながらふぅ、と息をつく。久々に長電話をしたものだ。何だか肩が凝ってしまった。腕をぐるぐると回しながら再びカウンターに戻れば、読み止しのまま開きっぱなしでカウンターに置いていた本を手に取りつつ店の入り口越しに外を見る。春も近い昨今、差し込む日差しはとても暖かそうなものだ。
 …―― そう、もう少しすれば春が来る。


「……さて、どんな子なんでしょうねぇ…あの二人の子供ですから一筋縄ではいかないんでしょうが」


 父親には似ていない事を祈りましょうか。
 そんな独り言を誰にともなく呟いて。

 『夜空屋』店主は、パタン…と手にした本を閉じた。



※あとがき※

 『DOGS!』にチラリと登場した『夜空屋』面子側の裏話第二弾。
 ひとつ前のものがセリス君視点で辿る物語だとしたら、こっちはルカさん視点になります。

 彼から見た周囲の人々や、実際どういう経緯であの面子が揃うのか。
 表側にあたる『天狼の系譜』とセットで読むと色々分かるよー…みたいな感じにしていく予定。

 時間軸はお互いにバラバラな所から書いていきますが、噛みあう所は噛みあう筈。
 表と裏の物語、どうぞ期待せずに眺めてやってください。


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