CSSレイアウト講座 雑記帳 サイレントナイト・スニーキングナイト 忍者ブログ

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サイレントナイト・スニーキングナイト

 今年もまた、あの日が来る。




【 サイレントナイト・スニーキングナイト 】




 時は十二月。一年でもいよいよ最後の一ヵ月ともなると、東西関係無く年越しや新年を迎えるイベントに沸き立ち浮き足立つものだ。それは、多くの人がひしめく都会は勿論のことであったが深い山奥にあるこの里においても例外ではないようだった。

 東方と西方、世界を二分する判断基準のちょうど中間辺りだとされている地方のとある高山に、ひっそりと人の住まうその里はあった。導士と呼ばれるもの達が集う隠れ里であるその地は、文明が栄える人里から遠くはなれているとは言えやはり年末を迎えどこか活気に満ちている。どの住人にも笑顔は絶えず、明るい雰囲気が里全体を覆っているようだ。
 ところが、そんな雰囲気にも関わらず暗い顔の者が居た。年の頃はまだ七、八歳程度の顔立ちもそっくりな二人組(双子なのだから、そっくりなのは当然か)は、賑わう里の様子を広場の隅で眺めながらため息をつく。


「……そろそろ、だな」

「です、ね……」


 歳に似合わぬ複雑な表情を浮かべる双子を、道行く大人が心配そうに眺めているが気付いた様子は無い。それほどまでに二人は真剣だった。彼等には、ひとつの大きな悩みがあったのだ。


「……もう十二月二十三日……一年はあっという間、です。本当に」

「ついに、明日だ……アイツが来るのは」


 そう。十二月二十四日、世間で言うクリスマス・イブと呼ばれるその日。
 この数年間、彼等を悩ます『アイツ』が訪れる日は、目前まで迫っていた。






 話は、数年前まで遡る。

 まだ二人が物心がついたばかりの事だ。ふと疑問に思ったことがあった。
 今までずっと当たり前みたいに思っていた。何の不思議にも思っていなかったこと……十二月二十五日になると枕もとに贈り物が届いているのは何故なのだろう。そんな疑問だ。当時の二人は、まだクリスマスと言うイベント自体を良く理解していなかった。まだそれを理解出来るほどに物事を分かる年頃ではなかったのだから、当然といえば当然なのだが。
 ともあれ、疑問に思ったら答えが知りたくて仕方なくなった二人は、物知りな自分たちの父親の元へと突撃した訳である。


「……え? 何で二十五日になるとプレゼントがあるのか、って?」


 仕事中だというのに優しく双子を迎え入れた父親は、唐突な疑問の言葉にまさかそんな事を聞かれるなんて思っていなかった、と言わんばかりの表情で苦笑した。最近、少しずつ知恵がついてきた子供たちの成長を微笑ましく思っていたものだが…其の矢先に投げられた質問がこれとは、まったく予想外である。
 勿論、世の父親母親ならば経験済みだろうがプレゼントを用意しているのは基本的には両親である。(例外的に、親族の誰かということもあるかもだが) だが、それをそのまま言うのは子供の夢をぶち壊しかねない所業なのは、まだまだ新米お父さんである彼にしても理解できることではあった。勿論、子供たちがクリスマスがなんたるか、ということを良く知らないとしてもだ。
 ここはまず、クリスマスについての知識をしっかりと再認識させることが重要だろう。そう判断した父親は、その場を部下に任せると、二人と手をつないで歩きながら口を開く。


「クリスマス、というのを二人は知ってるかな?」

「くりすます……」

「まちの人が、なんかそれでさわいでるのは知ってるよ」

「うん、そうか……あのね、クリスマスというのは西の遠い国で始まったお祝い事でね。偉い人の誕生日なんだよ」

「えらい人?」

「本にある、王サマよりえらい?」

「うーん、どうだろうね……さすがに父さんもそれは分からないなぁ」

「そのえらい人のたんじょーびと、プレゼントになんのかんけいがあるんだ?」

「うん、その日の夜になるとね。遠い遠い北の国から、トナカイという馬みたいな生き物にソリという乗り物を引かせて、サンタクロースっていうおじいさんがやってくるんだよ」

「さんた、くろーす?」

「その、サンタなんとかーっていうおじいさん、なにしにくるの?」

「一年間イイ子にしていた子供のお家に、こっそり贈り物を届けにやってくるのさ。それが、毎年二人に届いてるあのプレゼントなんだよ」

「あれって、サンタさんがくれたものなのかぁ」

「とうさまは、サンタおじいさんにあったことあるの?」

「父さん達? んー、見たことは無いねぇ……サンタクロースは、誰にも知られずにお仕事をするのが大好きだから、父さんたちが気付かない間にやってきて帰ってしまうんだよ」

「かあさまは?」

「母さんもきっと会った事は無いと思うよ。母さんに気付かれてしまったら、二人にプレゼントを届けられないだろう?」

「! ……そ、そうなのか……」

「す、……すごいのです」

「……?」

「ぁ、えっと、とうさま? ちょっとしらべものをしたくなったのです。しょこ、かりますね」

「え、あ、うん。……嗚呼、あまり本棚をぐちゃぐちゃにしないように気をつけるんだよ」

「はい! ……いきましょ、セリス」

「ん」


 ……せっかく親子三人でお茶でもしようと思ったのだが。
 聞くだけ聞いたら、あっさりとその場を立ち去ってしまった娘と息子を見送って一人になった途端、廊下のど真ん中で小さくため息をつく彼の姿は何処か哀愁を誘った。何だ。自分は失敗をしただろうか? 上手く説明出来てなかったのか何なのか、何だか途中の反応が変だった気がするけれど。特に最後のあたり。
 そんなことをつらつらと考えている彼が、この後通りかかった妻に「仕事をサボって何をやっている馬鹿者」とどつかれるのは……もう数分だけ、後の話である。






 一方その頃。
 父親が母親にどつかれて涙目になっている事なんて知りもしない双子は、家の書庫にこもっていた。さっき聞いた話について、こっそりと二人だけで話をするためである。


「……クリスマスにやってくる、サンタクロース……かぁ」

「すごいひとなのです。だって……あのかあさまが、やってきたことにきづかないなんて!」

「虫がはいってきただけで目をさますあのかあさんがきづかないなんて、すごうでのニンジャとかそういうのなんだ、きっと。なにかの本で、オンミツとかそーいうのよんだぞ、おれ。しかも、いい子じゃないとってことはいつもどこからからおれたちを見てるってことだ」

「かあさまにきづかれずにそんなことができるなんて……さすが、ニンジャです」


 まさに忍ぶ技術の第一人者である忍者でもなければ気配を察してしまう母親、というのもまた何なんだと一般人ならば言いそうなものだが、双子は気にした様子も無い。それが当たり前だからなのだろう。
 だが、最初こそすごいすごいと騒いでいた二人の顔色が段々と曇っていく。


「ぁ……で、でも、その本はわたしもよんだけど……ニンジャはあぶないヒトなのですよ? 『ミカタにしたら心づよいが、テキにまわすとやっかいなヤツラ』って、おしえてくれたセンセイがいってたもの」

「センセイはたたかったことあるんだったっけ。アンサツとかあぶない、っていってたよな……」

「とうさまでも、かあさまでもきづかなかったら……なにかあったら、あぶなくないです?」

「そっか……テキのいえにしのびこんで、こっそり中のよーすとかさぐるっていってたっけ。いい子なのをさぐるためとかプレゼントをくばるのはオトリで、じつはいろいろしらべてるんだとしたら……」


 子供ならではの思い込みはどんどんと際限なくエスカレートしていく。大人が居たならば、流石にそれは無茶だよと笑いつつサンタ=忍者説を否定してくれていただろう。ところが、普段ならば司書の者などが居るというのに今日に限って留守にしているのか、ツッコミ役は不在なようである。
 となれば、止める者が居ない話はどんどんと飛躍し加速して…


「つかまえましょう! わたしたちで」

「そーだな……とうさん、かあさんたちのコトはけいかいしてるかもだけど、おれたちのことはゆだんしてるかもだし……」

「プレゼントをおきにきたときになら、きっとつかまえられるもの……そうときまったら、ワナとかをかんがえないとです」

「ワナならかあさんがとくいだけど」

「かあさまにはきけないです……サンタクロースにきづかれたらこまるもの。わたしたちだけで、やらなきゃだめなの」

「そっか……よし、さっそくつかまえるほうほう、かんがえよう」


 暴走の結果。
 ここに、『二人だけでサンタクロースを捕まえよう計画』が人知れずこっそりと始まることとなったのであった。






「……あれから、もう二年、か」

「去年も、その前も……何でうまくつかまえられないのでしょう……」


 あの日から二人は、毎年冬になるとサンタクロースを捕獲するために現在の自分達で出来るありとあらゆる手段を駆使して準備を行い、当日に備えてきた。例えばそれは子供部屋やそこに繋がる廊下に罠を張り巡らせたりだとか、幼少期から習っている導術を使うだとか、まさに遠慮の欠片も情け容赦も無いやり方だ。
 ところが、結果は見てのとおり一回も捕まえられていないのだ。何時も気が付けば、枕元にプレゼントが置かれてしまっていて、まんまとサンタクロースにしてやられている訳である。
 今のところ何の被害も出ていないが、これは拙い。今年こそは何とか侵入者を確保しなくてはいけない、というこの使命感こそが双子の表情を曇らせている一番の原因であった。


「正直、打つ手なしってかんじだぞ……おれたちだけじゃ、さすがにムリなんじゃないか?」


 隣に座る姉に、弟が声をかける。この二年間で実力不足を嫌と言うほどに思い知らされた上で呟かれた言葉は、非常に重いモノを含んでいるようだった。それは言われた姉もやはり同じで小さく頷く。


「うん……でも、父さまにも母さまにもやっぱり聞けないです……」

「だよな。どうしたモンかな……」


 打つ手はもはや何も無いのか。
 二人が、そう思って何度目かのため息を落とした、その時。


『あら……二人とも、こんな所で何をやっているのかしら? 元気が無い様だけれども』


 思わぬ救い主が、現れたのだった。






『…。……。………。成る程、貴方達が言いたいことは良くわかったわ……。毎年この時期に妙な動きをしている原因もね。まったく……本当、何をやっているの。だいたい、夜更かしは駄目だと御父様に言われているでしょう?』

「う……ご、ごめん……」

「でも、しんぱいで……その……」


 あれから一時間後。
 主の子供二人に書庫に引っ張り込まれた白魔狼は、彼らの悩みを延々と聞かされその内容に盛大に呆れることとなった。毎年毎年、何だかクリスマスが近くなるとごそごそ妙なことをやっているとは思っていたが……まさかそれが、こんな見事な勘違いと思い込みからなる行動とは。
 とはいえ、流石に「そのサンタクロースとやらはでっち上げで、両親からプレゼントは贈られているのだ。忍者など居るはずが無いではないか」とは言えず(彼女は人間ではないが、その辺りを非常に良くわきまえた空気の読める魔狼だった)子供の夢をどう壊さぬ様に誤解を解けばいいのかと思考をフル回転させつつ、とりあえず無難に夜更かしをするなと注意するしかないのが現状である。
 その思案の様子を「危険なことをするな」とか暗に言われていると勝手に解釈したらしく、神妙な表情の双子は白魔狼へとそれぞれに懇願した。


「と、とにかく! ……ねぇ、レナ姉さま…おねがい、力をかしてほしいの」

「おれたちだけじゃ、ぜんぜんかなわなくて……」

「いちどで良いの。いちどつかまえて、弱みをにぎったらきっと悪いことだってしないはずだもの」

『………』


 何だか途中、年齢の割に非常に物騒な単語が聞こえてきた気がしたが。気のせいだろうか。いや、気のせいであってほしい。気のせいだろうきっと。思わず此処ではない何処か遠くへと視線を飛ばしつつ、魔狼は深くため息をついた。この様子では、自分がうんと頷くまでは諦めそうも無い。渋々と呟いた。


『……今回だけ、よ?』


 かくして、『二人だけでサンタクロースを捕まえよう計画』は『二人と一匹でサンタクロースを捕まえよう計画』へと仕様変更することになった訳である。






 さて、二十四日当日。
 ついに決戦の日が訪れた。

 双子は朝から気合全開で、自室やそこに至る廊下、或いは部屋の外周付近に物理的なものは勿論、術式などまで活用した罠をこれでもかと言わんばかりに用意してのけたようで、完成した頃にはもう随分と空も暗くなってしまっていた。ちなみに二人は、満足げに汗などぬぐっている。
 その様子を呆れ混じりに眺めていた魔狼(多少は手伝ったりもした)は、歳の割に予想以上の規模の罠がくみ上げられた様子に思わず感心してしまった。まあ、理由は色々とアレではあるが。


「ふぅ……これなら、どうだ」

「今まででイチバンがんばりましたもの。きっとダイジョウブですよね、レナ姉さまっ」

『……今までのものを私は見ていないから、何とも言えないわよ。それに、毎年あっという間に突破されているんでしょう? 姿も見ていないのに』

「うっ……」

「そ、それはそうですけど……」

「今年は、ほら……レナ姐がちゃんと相手のじょうたいを見ててくれるだろほらっ」


 少し自慢げに今回の罠の出来を主張する二人の痛い所をズバリとついてやりながらも、まじまじと出来を確認する。確かに、まだまだ精度も甘いしそれぞれの連携などはズレが大きい。更には、罠自体の隠し方もまだまだ荒い。しかし、物理系のモノと術式系のモノを組み合わせるという発想は素晴らしいものだ。これも、両親の教育の賜物だろうか。それとも才能の為せる技か?


『……まあ、何にしろ今宵の結果で分かるでしょうよ。貴方達は数時間後の勝負の時に向かって体調を整えておきなさい』


 勝負の時は数刻後になることだろう。
 当のサンタクロース役はどう動くのだろうか。白魔狼は答えを求めるように空を見上げる。既に茜から藍色へと染まっていた夜空は、ただただ星が輝くだけで当然だが何一つ答えを返してくれることは無い。


『今夜は新月、ね』


 今宵は、侵入者には絶好の侵入日和となることだろう。






 夜も更け、そろそろ日付も変わろうかと言う頃。
 ふと感じた張り詰めた空気に、眠りかけた意識が覚醒する。慌てて隣で控えていた姉を弟は振り返るが、どうやらコチラは完全に寝入ってしまっていた様で術杖に縋りつくようにしてこっくらこっくら船を漕いでいた。頬を軽く叩き、急いで起こす。


「い、たた…なぁに……?」

「来たみたいだ」

「あ、そうなの?」

『……気付くのが遅いわよ貴方達』


 二人の後ろに、結局付き合わされて待機していた白魔狼が呆れたように声を投げてくる。とはいっても、幾分潜められているその声音は、侵入者を考えてのものなのだろう。……まあ、当の魔狼は侵入者の正体を既に察しているわけだが。


「今、どのぐらいこうりゃくされてるかな……?」

『この部屋の外周に巡らせた十層式の仕掛けが七層目まで既に解除済みの様ね。鳴子も落とし穴もあっという間に無効化されてたわ。ただ、八層目に用意してあった術式系のモノで時間を喰っているようね。相手もまさか組み合わせてくるとは思って無かったんじゃないかしら。今は灯り始めた照明術式を避けて行動中といったところよ』


 月すらない闇夜だ。双子には正直部屋の中の様子も殆ど見えない。それだというのに白魔狼がすらすらと答えられるのは、獣ならではの超感覚が為せる技だ。気配に香りに物音に、といった様々な要素から現状を冷静に分析してみせる。
 その感覚が正しいならば、どうやら現在、罠だらけの地面から屋根の上へ退避しようとしていたらしい侵入者は、部屋周囲に張り巡らされている無数の罠に部屋に近付くのを躊躇っているようである。まあ、確かに屋根の上に登るにもそれなりに近接していないと難しいのは確かだ。当然の判断だろう。
 更に、姐の方が仕掛けておいた生き物の接近を察知して時間差で灯る明かりがひとつ、ふたつと増えている。灯りを避けて行動しようとすれば自然と動きも封じられる事となるだろう。そうなれば、相手を追い詰めることも不可能ではなくなるかもしれない。

 何時もと違って意外と攻略される速度が遅い事に双子はこっそり歓喜しつつ、次の手を打つことにしたらしい。何やら姉のほうがごにょごにょと詠唱を開始している。導術を使うつもりなのだろう。
 唱えている内容からすると、どうやらこの部屋と廊下付近以外の外周部分を光を放つ結界で囲むことで、外にも逃げられなくするつもりのようだ。そうなれば、部屋周辺も無理、脱出も無理となり廊下から部屋へと侵入するほかに隠れることは不可能となる訳だ。そうなれば、嫌でも双子(ついでに魔狼)達と対面する他無くなるのが狙いなのだろう。


『向こうも予想していたならば此処までにはなってなかったでしょうけど、予想外の展開にうっかり危ない状況といった感じね。…さて、如何動くのかしら?』


 外の気配は僅かに躊躇したようだった。
 まあ、罠だと分かりきっている場所に突っ込むのは、それなりの勇気が必要なものだ。当然だろう。だが決めたのか、正面から侵入を開始したようだった。あっという間に廊下に仕掛けられている無数の罠が解体(というよりこの気配は破壊かもしれない)されていくのが分かる。


「さすがに、早すぎだろ……!? これ!?」

「でんせつのニンジャとか、きっとそういう人ならしかたないですよ……でも、じゅうぶん時間かせぎにはなってるもの。だいじょうぶです。……正体さえ見てしまえばこっちのモノ!」


 突入してきたと同時に照明と捕縛の術式を発動させるつもりなのだろう。準備万端な姉の方は、ほんわりとした笑顔でなかなかに腹黒い言葉を口にする。その隣では、やはり捕縛用の無数の罠を作動させるべく扉の影で弟の方が待機している所だった。このまま突入してくれば、流石にこれだけ慣れた様子の侵入者でも捕まってしまう可能性はゼロではない。
 その間にも最後の罠が突破されたらしい。扉に手が掛かったのかギシリと一瞬揺れた扉に、飛び込んでくる相手を迎え撃つため迷うことなく双子は罠を発動させようとした、その時だった。


『あら……この気配は』


 魔狼の呟きが聞こえるか聞こえないかといったその刹那の合間に、周囲に張り巡らされていた無数の術式的な罠が強制的に無効化され、消滅した。更に、姉の方が発動させるために保持していた『構成』まで何者かによって崩壊させられ霧散する。勿論、術式で灯されていた明かりも結界すらも瞬時に消え去り、視界が闇に染まった。時間にして一秒にも満たない僅かな時間で、あっという間に視界が奪われる。


「な……っ!?」

「まず……、うっ」

「ぁ、セリス!? ……きゃっ」


 唐突な展開に動きの遅れた弟が、罠を発動させるより早く。侵入者によってその意識を刈り取られたのか、その場に倒れ込む音が響いた。更にその弟に駆け寄ろうとした姉のほうも問答無用だったようだ。短い悲鳴の後、すっかり部屋の中は静かになってしまった。
 一連の騒動がひと段落したのを感じ取って、白魔狼はため息をつく。


『……あのね』


 侵入者が居るであろう方向へと、その氷蒼の双眸を投げた。別に捕まえるつもりはない。そこまでのことは約束していない。ただ、これだけは言っておくべきだろう。呆れ混じりの、冷え冷えとした呟きが落とされる。


『本当、大人気ないわよ?』

「うぅ……ご、ごめんなさい、レナ」


 そんな白魔狼の言葉に、侵入者こと双子の父親は平謝りするしかなかった。






『……まったく、本当呆れたわ。多少は手加減してあげればよいものを』

「うん……僕も最初はね、そう言ったんだけどね……」


 床の上に寝そべったまま言葉を投げかけてくる従者に、意識を落とされ今は眠る子供達を部屋(罠はあの後直ぐに解体したらしい)のベッドに寝かせてやっているご主人は苦笑を返す。今回も敗北と言う展開に終ったことが悔しいのか、夢の中でも魘されているらしくうんうん唸る息子に布団をかけてやりつつ肩をすくめた。


「でもほら、彼女がね。まあ、反対してね」

「……獅子は兎を狩るにも全力を尽くす、というだろう? 子供だからといって手加減するのは良くない」

「……とまあ、毎年こう言う訳で」

『……そういう問題かしらね』


 唐突にその場に現れたもう一人の侵入者は悪びれた様子も無くそうのたまってのける。口調もその眼差しもまっすぐな辺りからして、どうも本気で言っているらしい。神出鬼没に現れた上、子供達が仕掛けた全ての罠を解除(というより破壊)してきたこの女性こそ双子の母親なのだというのだから、いやはやまったく世も末だ。
 彼女は、呆れを通り越してもう如何にでもしてくれと言わんばかりの魔狼の脇を通り過ぎると、小脇から何やら取り出して双子のそれぞれの枕元に置いてやる。綺麗な包装紙とリボンのラッピングを施されたそれは、まあ何処から如何見てもプレゼントと言う奴だ。


「……これで良し。今年最後の大イベントも終ったし、そろそろ寝るとするか」

「本当、大イベントだよ……毎年毎年、僕は疲れるんだけどなぁ……」

「何が疲れる、だ。子供の為と思えばこの程度は準備体操にもならないぞ? 百の練習より一の実践が一番。実際、今回は何時に無く凝ったやり方で危うく私でも負けそうになったしな」

「……まあ、ね? 上達がこれのおかげで早いのは否定しないよ。……でも、これ後何年するの?」

「サンタクロースを信じなくなるまで、だが?」

「……ですよねー」


 きっと子供達に対する愛はあるのだろうが。斜め45度ほどずれていそうな愛情を示している母親と、彼女の言動に振り回されることを既に甘受しきっている父親の様子を横目に白魔狼は本日何度目になるか分からないため息をついた。


『成る程……鍛えるつもりでやってたのね、貴方達』


 本当に馬鹿だわ、と思っていても言わなかったのは魔狼なりの優しさの賜物だったのかもしれない。






「ううぅ……また、……また、だめだった」

「くやしいわ……いつか、ぜったいつかまえてやるんですから……っ」

「あは、は……サンタさんも毎年大変そうだねぇ。いや、もう……本当に」

「そうだな」


 翌日の朝。
 枕元のプレゼントを見て、まず悔しげにうめく辺りがこの双子の明らかにおかしいところである。基本的にプレゼントを貰ったら通常なら喜ぶのが普通じゃなかろうか。少なくともクリスマスを楽しみにしている世間一般の子供達の反応はそうあるべきなのだろうが。この様子は、双子がサンタクロースの正体を知るまで続くのだろう。多分。


『……やれやれ、だわ。来年は勘弁願いたいものね』

『……姉上も苦労するな……』


 実は以前に巻き込まれて以来、この時期の双子に近付かないようにしていたという黒魔狼の言葉に、「まったくだわ」とため息混じりに返しつつ白魔狼は思う。結局のところ、今日もまたこの里は平和なのだろう、と。


※あとがき※

子世代ネタを本当にそれなりの形にしてみたらこんなになった。
色々と思いついたままに書いたはいいが、収拾がつかなくなるから困る。(苦笑)

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