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――2026年4月XX日 14:32 学生区 長月学院正門前
雨が降っていた。
しとしと、などという大人しいものではない。今朝方、地上より遥かな高みに存在する戌亥ポートアイランド製気象衛星『あまつみかぼし』が「晴れ」だと宣言したと言うのに唐突に降りだした突然のその雨は、ザアザアと激しい音を立てて地上へと降り注いでいる。
そんな悪天候の中であっても、この戌亥ポートアイランドにて月一で行われる〝合戦〟は滞りなく進められていた。視界を遮り制服をしっとりと濡らして動きを阻害する雨の中ではしかし、その時確かに、各学院同士の激しい火花が散っていたのである。
それは、この長月学院においても他とは変わらない事でもあった。生徒会長になる前も…そして正式に就任してから初となる今回の〝合戦〟においても常に学院の敷地内から外へと一歩も出る事は無く、攻守で言うならば守備に関して特化した強さを知られる長月学院生徒会長の撃破、或いはその防衛の隙を突いての校旗の奪取を狙う他校からの〝DOGS〟達による襲撃を受け始めたのは、今から数十分は前の事だったのだから。
…――ただし。
何時もと違うのは、今、長月学院の敷地入口に立つ影は一つと言う事だろうか。
常ならば現生徒会副会長と共に防衛に立つことの多い生徒会長は、今、たった一人だけで学院の正門に立っている。その前方、正門に到達する前の路上に死屍累々と形容すれば良いぐらいの数の人間が倒れていた。全てが全て他学院の〝DOGS〟達だ。大体が気絶し、残った者も明らかに戦えるような状態では無い。
その内の一人が、傷付いた体を押さえながらも自分達の前に立ちはだかっていた生徒会長を睨み付ける。戦えるだけの体力も気力も無いのは明らかなのに、その瞳に宿る力の強さだけは本物であった。しかし、その中には明らかに敵意だけでは無い何かもまた宿っている。その証拠に、瞳は当人の当惑具合を現すかのように激しく揺れていた。まるで、有り得ないモノを見た…そう語るかのような眼差しで、彼は問う。
「……今のは……〝何〟だ? アンタ…一体、〝何をした〟? アンタがそんな『力』を持っていたというデータは…今までどこにも無かった筈だ…!」
「………残念ながら、君のその質問に答えてあげられる権利を、僕は持たないんだ」
はたして、帰って来たのはどこか気の毒そうな気配の籠る小さな囁きだった。雨の音に紛れてしまいそうなそれは、しかし確かに問いかけた相手へと届いたらしい。訳がわからない、という顔をした質問者を雨の下でずぶ濡れのままの生徒会長は静かに見降ろす。
「…何を、言って」
「これ以上言える事は無いよ。ごめんね。……さぁ、もう休んで」
学院間の擬似的な戦争に近いこの〝合戦〟の最中。目の前に居るのは敵側の生徒だと言うのに、返されるのは労わるかの様な言の葉。しかしその発言と同時、今まで何とか意識を保っていた生徒はカクンと糸の切れた操り人形の様にその場に倒れこむ。
その首筋に的確な手刀を叩き込みその意識を奪ったのは、何時の間に現れたのか…生徒会長と瓜二つの顔をした一人の少年である。いや、正確には顔や服装は全く同じだ。しかし髪型は長髪ではなく短髪であり、表情もどこか狡猾な雰囲気、そして何より左腕に嵌められている腕章が違った。本来ならば『生徒会長』とある場所には『学生連合長』…そう刺繍されている。
「ありがとう、クロ君。……被害の方は?」
「会長が殆どを此処で引き付けてくれてたし、ボクが事前に仕掛けておいた罠の効果もあってか殆ど被害らしい被害は無いよ。まあ、交戦した生徒に幾らかの被害があったって事と、多少の備品の破損なんかはあったみたいだけれど問題はないさ」
「……攻撃部隊の情報は?」
「さっきテレビの中継でやってたけれど、副会長達は上手い事文月の会長達と合流して師走に乗り込んだ上で校旗の奪取に成功したみたいだよ。あそこの火力は上手く使えば本当良い目暗ましにも攻撃にもなるから、同盟を組んで正解だったね。今回はロングレンジが超得意な〝龍星〟までいたみたいだから容赦の無い援護射撃も相まって、ちょっと師走がフルボッコすぎて可哀想になったかも」
「そっか…上手く撃破したみたいなら良かった。じゃあ、皆、無事に帰ってきてるのかな?」
「多分、今頃は帰還中だとは思うけど。また戻ってきたら教えるよ。後の目立った事と言ったら…そうだそうだ。ほら……最近頭角を現してきてる虫系異形の召喚が得意な彼」
「あぁ、安里君?」
「そうそう。今回の彼の活躍は見事なものだったよ。虫系異形の大群で見事に敵陣営を撹乱してたからね。アレだけの量の物量攻撃なんてそうそうされた事が無かったみたいで、師走の連中も随分と慌ててたみたい。彼……前は伸び悩んでたみたいな様子だったんだけれど、あれはひと皮剥けたか吹っ切れたかな?」
「さすが、良く見てるね。君は」
人間観察が趣味…と普段から公言してのけているというクロの言葉は、だいたい間違っていない。その観察眼に関心しつつ、アレは純粋に彼の契約対象に対する想いの強さが一番だと思うよ…と言葉を返しながら、周囲を見回す。見渡す範囲に新たな襲撃者の気配は無い。とりあえず途切れた、と思って間違いないのだろう。
少し安心してホッと息を吐く。腰に下げた鞄から一枚の朱色をした羽根を取り出せば、それを見咎めたクロが複雑な表情で口を開く。
「その羽根…シームルグのだよね。会長……また、中央交差点まで『彼ら』を運んであげとくつもり?」
「うん。流石にこう、校門前まで別学院の保健委員が来る…っていうのはあまり見ていて気持ちが良いものじゃないしね。待機中の他の人の召喚獣達も気が休まらないだろうし」
「…。……。………。……まぁ、良いけどね」
呆れ混じりに、しかし言いだしたら聞かない会長の性格を知るクロは肩を竦めつつ諦めたように呟いた。実際、眼前に敵側の生徒がいっぱい倒れていたら、既に戦闘不能状態とはいえその気配に殺気立つ召喚獣は多い。皆を軽く休ませてやりたい今現在、それは妥当な判断…と言えなくもないのだ。
羽根を燃やしてシームルグを呼ぶ会長のその背中を手持無沙汰に眺めながら、ふと彼は言葉を投げた。
「…――そういえば会長」
「ん? 何?」
「さっきの〝アレ〟。結局、何なの? 魔術って感じでも無かったし…それに、ボクも見た事が無かったんだけど」
それは先程気絶した襲撃者も投げた問いかけ。
この生徒会長は、会長になる前…つまり高等部一年生の頃からその召喚に関するセンスを見込まれ生徒会書記としてDOGSのメンバーとして既に多くの〝合戦〟に参加してきた人物だ。その戦い方は、同じ学院は当然の事だが中継を通して他の学院にまで知れ渡っている。勿論、それらの情報を元に対策を練って闘いを挑んでくる者は多い。
その蓄積されてきた情報の中に、先程の様な『能力』の発現はまったく無かった筈だ。少なくとも、自分が知る限りの中では。言外にそういう意味を含めての質問である。それに対して、会長はゆっくりと振り返ると困った様な悩む様な複雑な表情を浮かべて暫し思案した後、言葉を選ぶようにして呟いた。
「うーん……だから、話せないんだよ。〝アレ〟に関して、本当に。話そうとしても、〝話せなくなってる〟んだ。そういうモノらしくてね」
要領を得ない回答ながら、しかし成程とクロは納得した。つまり、悪魔との契約で名を名乗れなくなった魔術師の様に、何らかの制約によって彼は『ソレを語る事』自体を禁じられているのだろう。しかももしかしたらその『力』を手に入れたのは最近の事なのかもしれない。ならば、襲撃者が知らないのも仕方が無い話ではある。
羽根の誓約の元、風切り音を引き連れて舞い降りてくる巨大な霊鳥降臨を背後に、クロはもう一度倒れ伏した襲撃者達を見降ろした。――…彼らの周辺のアスファルトが、まるで無理やり押込まれたかの様に陥没している様を眺めつつ、
「……詠唱すら無く、唐突かつ局所的な場の重力の改変…とはまた。……本当、一体どんな手品なんだろうね」
そんな言葉を、一人ごちた。
〝ソレ〟は何なのか。
問いに対して、答えたくないとか手の内をばらしたくなかったとかでは無かったのは確か。答えれるものなら応えてあげて(まあ原理までと言われても自分でもまだ良くわかっていないからきっと無理だけれど)、正々堂々と挑んでくればいいと本当は思っている。
でも、それは出来ない相談だった。
だって、それは封じられている。
禁じられている。
戒められている。
――…他ならぬ、自分にこの理を半強制的に授けた、『彼』によって。
※ ※ ※
「ようこそ。全ての真理の混沌の扉にして世界の裏側たる白の塔へ。僕は君を歓迎しよう、セリス=マジョリス」
あの時。
あの、夢としか思えない時間の中。
いや…正確には本当に「夢」越しの邂逅だったのだろうあの場所で。
出遭った『彼』はそう言ってにこりと笑った上、軽く会釈までして見せた。
しかしその笑顔に安心など出来はしない。歓迎と言われても不安になるだけだ。しかも、サラリと名を(しかもフルネームだ)呼ばれた事にドキリとする。何故知っている? 自分は名乗った事は勿論だが、この建物で目覚めてから一言も口にした覚えは無い。当たり前だが、今着ている寝間着に名前をいちいち書き付けている…何て事もありはしない。
妙な緊張感に喉が乾くのを感じながら、恐る恐る口を開いた。
「……あなたは、一体……?」
「ふふ……僕の名前や存在は、知った所で大した意味は無いし知る必要性も無いよ。存在するも存在しないも君からすれば等価たるこの身の何を知った所で、其処に空白がある事を自覚する為だけに式を解く作業と同じぐらいに非生産的な行為にしかならないだろうからね。…まぁ、ただそうだなぁ…言える事があるとすれば」
思案する様な仕草で『彼』は自分を見ている。その人の様で人で無い、そんな気配すらさせる紫紺の瞳に見つめられて視線をそらした。なんだか落ち着かない。その目を見ていると、どうにも不安になる。何を考えているのかさっぱり読めないのが原因なのかもしれない。下宿先の主人であるルカもそういう目をしているが、アレよりも更に読めない。此処では無い何処かを見ている様な…そんな感じさえ抱かせるのだ。
其処で、ふと頬に触れる物があった。『彼』の手だ。細い指先が自分の方を上向かせる様に顔を固定すれば、少し屈む様にして此方を覗きこんでくる。何時の間にこんなに距離を詰められたのか。その自覚すら無かった事に冷たいものを背筋に覚えたが、『彼』は気付いた様子も無い。何やら確認する様まじまじと此方の顔を見た後、満足げな表情で唐突に解放された。
「うん、やっぱりそうなんだろうな。……『君』は、僕の可能性だった…というだけの事だろうね。完全に同じではないけれどそれでも同じ要素を持つ、世界の用意した可能性ではあったんだろうとは思う。……まぁ、君には何も分からないだろうけど」
確かに一体何を言われているのかさっぱり分からない。
そんなこちらの表情に気付いたのだろう、『彼』は「気にしないで」…と小さく笑って続ける。
「そんな話はもう良いよ。必要無いし時間の無駄だ。此処は、そんな話をする為に開かれた訳じゃあない。……本題と行こうか」
『彼』はその腕をサッと一振りした。途端、眼前に少々変わった形状の椅子が二脚(何といっても本体を支える脚が無い上に浮いている!)現れる。その椅子のひとつに促されるまま恐る恐る腰掛けると、『彼』は口を開いた。
「此処は…というと少々語弊があるのだけれど。まぁそうだね…今、君が居るこの白の塔は魔法の具現に最も近しい場所だ。世界の理に、唯人がほんの僅かであれ触れる事の出来る稀有な機会でもある。魔法……つまりは願望を叶える不可思議な力への扉を、君は強い願いでもって引寄せ、抉じ開けた。その結果として、正当な対価や覚悟と引き換えに可能な限りの世界の改変を行う権利を得る事が出来た訳だね」
「願望を叶える…とか、改変ってどういう……?」
「願望を叶えるっていうのはそのままさ。例えば君が空を飛びたい、と願望を強く持っていた人だったなら空を飛べるようにしてあげるって事。まあその手段は色々あるんだろうけれど、それを乗り物によって成すのではなく身一つで出来る様になりたい…と願うならば。その人物をただの人間から飛行能力をもった人間に変化させる……これが改変だね」
「そんな無茶な……」
「無茶も何もないさ。それが出来ると言っているからには出来るんだよ。ありとあらゆる、世界の理と照らし合わせた上で実現が可能とされる願望ならば何であろうと…ね。ただし、」
ひとつだけ譲れないものがある、と囁いた『彼』は指を一本立てて微笑んだ。
「それ相応の対価は頂くよ」
「対価…?」
「対価は対価さ。欲しいものを買うのに、君はそのまま勝手に持っていくかい? ちゃんと代金を払うだろう? それと同じだよ。品物に対して金銭を払う、願望を叶える事に対して何らかの対価を払う……まぁ、つまりは等価交換と言う訳さ」
等価交換。つまりは等しい価値を有するものを相互にやり取りする事だ。需要と供給が等価な場合にのみ行える事でもある。この目の前の人物は、願いの内容に等しい対価さえ用意出来ればあらゆる願いを叶えられる……つまりはそういう事なのだろう。
「嗚呼…勿論、この機会を得たからと言っても必ず願望を叶える必要は無いけれどね。これは義務ではなく全てが君の想い次第だ。実際、何もせずに帰還した人は多かれ少なかれ居たよ。今まで何人も」
だから安心して考えれば良い。時間だけはたっぷりあるんだから。そんな風に『彼』は語れば、後は好きにしろとでも言わんばかりの態度で此方を見ている。叶えるのか叶えないのか、その結論が出るのを待っているのだろう。
しかし急にそんな事を言われても、と思う。そりゃあ自分だって全く欲の無い悟ったような人間ではない。せいぜい十年と少し生きただけの世の中の事もあまりよくわかっていない様な、ただの子供だ。欲しいものとか手に入ったらなと思う物はそれこそ無数にある。では、一体自分のどんな願望に彼は呼応されたというのか。
「あの、その」
「…何?」
「いえ、ちょっと気になった事が……その、対価っていうのは…どんなものを求められるんですか?」
「ふふ、乗り気だね。それだけ叶えたい願望がある証拠かな? それとも…? ………まぁいいや。大なり小なり世界の改変を行う為の対価は、それこそ千差万別様々だよ。全ては願望の内容次第。でもまぁ、大体の傾向からすると…その人にとって最も大切であったり、価値があるもの、失うと困るようなものが多いかな。極端な例を挙げるなら、身体の一部や命を貰わないといけない様な人もいたっけ」
さらりと説明された内容は、その口調に反して随分と重いものだ。
思わず聞き流してしまいそうになったが、身体の一部だの命だのと明らかに物騒な事この上ない。何らかの文献で読んだ(幸いな事に、まだそういった経験は無かったし経験談も聞いた事は無い)悪魔の契約に近しい物すら感じてしまう。そう思うと、目の前の人の良さそうな青年の笑顔も酷く恐ろしいものに見えてくる。
「…願いを叶えて……対価を払わなかった人とか、居たりは……?」
「有り得ないね」
試しに思いついた事を言ってみれば、即答で断言された。
それこそゼロコンマ秒すらなかった反応に驚くこちらに、『彼』は何でも無い事の様に続ける。
「叶えた時点で僕はそれを頂く。ちゃんと全て話して、こうやって時間を取って結論を待った上で、そういう覚悟を決めて願ったんだから貰う権利はあるという事さ。だから、嫌がろうが何だろうが強制的に奪うよ。対価を」
「……」
「其処までしなくても、と君は思っているんだろうけれどね。万引きとかそういうモノとは次元が違うのさ。世界を願望のままに変えてしまうんだから、それに見合う対価が無ければ……傷が付く。理が歪む。均衡が崩れる。そして何時かは壊れてしまう。……それは世界の望む所では無いんだよ」
だから、君もそれ相応の覚悟をして決めてね…と締めくくられた。
心臓に悪い。
「いや…あの、でも……今ひとつちょっと分からなくて」
「何が?」
「僕がココに居る、っていうのはつまり……何らかの僕の願望にあなたが惹き寄せられたから、で間違いないですよね? しかも相当強い願望に」
「そうだね、僕はそういう存在だから。意味も無く人間に干渉したりはしないし、些細だったり低俗だったり…まあ叶える価値もなさそうな願望には反応しないよ」
「ですよね? でも、だからこそ、余計に……自分で分からないんです。…僕は、一体何をそれだけの強さで願ったのか」
少なくとも、寝る直前にてるてる坊主にお願いした『雨を降らせて下さい』なんて可愛らしい願いでは無いだろう。それだけは分かる。ならば一体、『彼』は何に対して反応したんだろう。だからこその、心からの疑問の言葉だった。それに対して、『彼』は漸く納得がいったと言わんばかりの表情で笑う。
「成程。無自覚の望みだから自分でもわかってなかったんだね。道理で、全然一言もそういう願いらしい願いを口にしないと思った」
「う……す、すいません」
「謝る程の事でも無いさ。そういう人も、やっぱり多かれ少なかれ居てね。心の奥底では望むのに、自覚が無い…何て言うのは珍しい話でも無い。そうだね、君の場合は――…」
全てを見透かすかのような双眸で見据えられた。
「護りたい」
「…?」
「それが君の願望だ。君は君に関わる者達全てを『護りたい』。そう望んでいる。無意識に、純粋に、それはそれはとても強く……ね」
「……護りたい……?」
「そう。それを望むようになった過程や理由までは知らないし僕にとっては如何でも良い事。ただ、君はそれを心の底から望んでいる。でも望むのにそれを実現出来ない現実も分かっているみたいだね。少なくとも、今のままの自分では護るだけの力が無い…と」
「…。……。………」
「自覚はあるかな? 確かに君の内に在る力は、身に付けた技能は、『他者に呼び掛けその力を借りて自らのモノの様に扱う』事。どうやっても自分一人では完結出来ない。故に、其処にジレンマを感じる。だから望んだ。――…どうか叶うならば自らの力で、自らの意思だけで、誰かを護る術が欲しい、と」
「……それ、は……」
まだ戌亥ポートアイランドについてを知ったばかりの頃、入学試験と一緒に魔術に対する適正を調べた事がある。
元々、召喚術に関しては幼い頃から身近に存在するものだったから調べるまでも無く最も適性が高かったけれど、それ以外の例えば精霊術だとか黒魔術、白魔術の様な西洋のモノは勿論の事、東洋魔術などまで数多くの術に対して自身に才能があるのかどうかを確認するテストの様なものを行ったのだ。 その結果は、『使えない訳ではないが、簡単なものしか無理』というもの。少なくとも、それ単体だけでやっていけるほどの適性は無いという結論に落ち着いたのである。
それを知った時には、仕方が無いものだと諦めていた。諦めてしまっていた。生まれついてのものなのだから、こればかりは望んだ所で如何にもならない事なのだ…と。だからこそ、召喚術一本を極める事を自らに課して今までやってきていたのだ。
だが、しかし。
心の何処かでは納得していなかったのかもしれない。諦めきれなかったのかもしれない。
自分を助けてくれる多くの人を、或いは人で無い存在を…護られるだけではなく自らの手で護りたい。
その想いは、心の奥底で無意識のうちにずっとずっと長い間燻っていたのだ。
その事を、今の言葉で思い出した。
思い出してしまった。
「……、もしかして…叶えられるんです、か……?」
対価は何だろうとか、そう考える前にその言葉が出ていた。
目の前にいるのは、制約はあるもののあらゆる願いを叶える事が出来る…と自称する魔人だ。
その判断次第では不可能ではない。そう言う事になる。
「そうだね…………うん、まあ可能だよ」
「!」
「君の願望…他者を護る為の『力』を得る事、は叶える事は不可能じゃない。生来のモノを改変する形になるけれど無理ではない。ただし、頂く対価も其れに比例して重くなる」
「…どんな、対価なんですか…」
「対価の内容次第では、願望を叶えたい?」
「えぇ」
「ふふ、良い表情だ……その願望に対して、僕が君に求める対価はただひとつ」
『彼』は一本指を立てて見せればにこりと微笑み、
「――…君が『護りたい』全て……その全てのモノとの『関係性』を頂こうか」
しかし…優しく告げられた対価は、自分の想像以上に残酷なものだった。
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