CSSレイアウト講座 雑記帳 天狼の系譜 ~白の塔 / 覚醒~ 忍者ブログ

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天狼の系譜 ~白の塔 / 覚醒~

 最近、特に思う事がある。
 自分は弱くて、本当に非力で、何も出来ない人間だと。

 何時だって誰かに助けてもらってばかりだ。
 自分の力で何かを護れた試しが無い。
 こんな自分を慕ってくれる皆が、代わりにしてくれた事ならば沢山あったけれど。


 だから。
 力が欲しかった。
 自分で、ほんの少しでも誰かを守れるだけの力が。

 ……その為にだったら、何でもしてのけるのに。
 それぐらいの覚悟で。









 ふとした瞬間に眠気がまったく無くなって目が覚める、という事は誰でも経験した事もある感覚だろうと思う。唐突に訪れる覚醒の瞬間とでも言おうか。この時もまさにソレだった。何の脈絡も無しに眠りから覚める、そんな感覚。

 瞼を開けば、視界に目に痛い程の不純物を含まないどこまでも透き通った白が突き刺さって、思わず慌てて目を閉じた。何だろう今のは。あんな白は産まれてこの方見た事が無い。恐る恐る、今度はゆっくりと慎重に瞳に馴染ませる様にそっと目を開く。やはり広がっていたのは果てしの無い白だった。首を巡らせ周囲を見回してみたけれども、結果は同じ。どうやら部屋の様な場所に居るようだけれど、上下左右、何処を見ても白以外の色は無い。
 それどころか壁と床と天井との繋ぎ目もぱっと見ではさっぱり判らなくて、距離感が狂う……というのが今のところの感想だ。一瞬、夢か幻でも見ているのではと思い立ち頬をつねってみたが、何も変わらない事からしても夢幻は勿論の事、気のせいなどでは無かったらしい。


 自分は今まで何をしていたのだったか。
 非常識な光景をようやく認めた事で少し余裕が出てきたおかげか、やっと頭が回り始めた。自問する。自分は何をしていた? こんな場所に自分から来た覚えは無い。と言うか、まず在処を知らない。それに記憶が確かならば、自分は此処で目覚める直前まで自室の布団の上で眠っていた筈だった。就寝前に窓辺に逆さに吊るしたてるてる坊主に「そろそろ、程ほどの量で良いから雨が暫く降りますように」と庭に置いたハーブのプランターの為に願掛けしてから布団に潜った記憶もある。間違い無い。
 だいたい、こんな真っ白いだけの部屋だなんて悪趣味なだけだ。それに、何の本だったかは忘れたが白一色の部屋に長期間閉じ込められた人間は発狂するとか何だとか言う物騒な記述を見たような記憶がある。だとすると、今の自分はかなり危ない目にあっているんじゃないだろうか。

 慌てて自分の状態を確認する。まずは身体を。やはり就寝前に着替えた寝間着のままだ。しかもスリッパも履かずに裸足のまま、今の今まで突っ立っていたらしい。そういえば、目覚めた時から妙に足がヒンヤリすると思った。今頃そこに意識が向くのは遅い気もするが、まあ事態が事態だ。仕方が無い、という事にしておく。
 次にもう一度周囲を見回した。何らかの建物の中なのはわかる、だが入口兼出口らしきものはおろか、窓一つ見受けられない。改めてみると、やはり距離感がいまいち掴み難い構造物だ。物が無いのもだが、周囲に広がる白が原因なのかもしれない。たださっきは気付かなかった事だが、どうやらこの建物、天井が恐ろしく高いようだ。白に紛れて分かり難かったが、見上げた先は何処までも高くにまで伸びている。一体この建物が何階建て相当なのかも予想出来ない程に。
 もしかしたら出入り口は上にあるんだろうか。そんな事を思いながら、上を見上げた。実際、一番最下層らしき此処にないのならそれぐらいしか可能性は無い気もする。……まあ、これは例えば転移魔術とかでのみ出入り出来る建物では無い、と言う場合に限る訳だけれど。

 何にせよ此処には誰も居る気配は無いのだし、このまま此処に居ても解決策は見つかりそうもないのだ。上に向かう階段なり何なりが無いものかと、壁があると思わしき方向に歩を進める。周囲が真っ白いせいで今ひとつ前に進んでいる気はしないが、しかし眼前に白い壁が迫って来ている気配はした。程無くして、伸ばした掌が壁に触れるまで近寄ったところで立ち止まる。パッと見た限り階段やそれに準ずる何かは見当たらない。試しにそっと指先で触れた部屋の内壁は床と同じくヒンヤリと冷たく、どこかツルリとした石か硝子に触れている様な触感だ。更に壁自体がほんの僅かなものだが、上に向かうに従って狭まる様に微妙な弧を描いているのも分かる。
 だが、分かった事はそれだけだった。完全な手詰まり状態に、何らかのギミックが仕込まれている様子にも見えない壁に向かって嘆息する。どうしたものか。


「……上に、行きたいんだけどな」


 此処に来て初めて口にした言葉は、部屋の広さや天井の高さもあってか妙に大きく響いた。本当にこの先どうしたものか。そんな思案の中、エコーをかけながら消えていく自分の声に耳を澄ませていたその時。

 こつり、と。

 足元。ちょうど膝辺りに、何かがぶつかる様な感触を感じた。何事だろうかと見降ろすと、何やら白い物体が自分の足にぶつかっている。それは先程まで見ていた壁から無造作に生えた、一枚の板の様だった。とはいえ板というには随分薄い。見た感じ1cmにも満たない厚さのそれは、音も無くするすると壁から垂直に伸びて自分の膝にぶつかり動きを止めている。
 否、止まってはいないのか。実際、その板からそこをどけろと言わんばかりの圧力を触れている部分から感じ慌てて足をどけてやると、それはするすると壁から1m程の長さにまで伸びた所でようやく動きを止めたようだった。更に続いて、今出てきたものより少し高い位置に一枚、二枚と続けて同じ様なものが生えてくる。ほんの数分もすれば、それはまるで手摺の無い階段の様に上へと伸びる道を造り上げていた。

 恐る恐る足を乗せてみる。見た目それほど頑丈そうでもないのだが、たわむ事も無くその白い板の様な物体は自分の体重を支えていた。軽くジャンプしてみたがビクともしない辺りからしても折れたりする心配はなさそうだ。その事に軽く安堵しながら歩を進める。とりあえずは上へ向かう道は出来たのだから行かない理由は無いだろう。手摺が無い分落ちてしまいそうで少し怖いが、なるべく壁沿いに歩けばそれほど危険も無い筈だ。


「高所恐怖症とかじゃなくてよかったよ……本当」


 そんな精神的な弱点があった日には、こんな場所に足を踏み出そうだなんて間違っても思わないだろう。そのまま閉じ込められてゲームオーバーになるかもしれない。そうならなくて良かったと小さく笑って上を見上げた。終わりは見えない。どこまで歩けばいいのやら、判断できそうなものはやはり何もなかった。ただただ延々と即席の階段は上に向かって続いていた。


>>To be continued…



※あとがき※

 『DOGS!』本編に我が家のキャラがぞろぞろ(顔出し程度とはいえ)出演した…と言う事で。
 そのキャラに関係する短編をごそごそ用意してみようかな、と。

 や、何だかね…『DOGS!』作者さんに色々期待されてたらしいので。(笑)
 きっと本編には殆ど窺えない、『夜空屋』面子の事情だとか色々な背景を語って行こうと思います。

 今回はあの面子が揃うまでのお話。
 全てが白に染まる塔で、彼は一体何を見、何に出会い、そして何を得るのか。
 その序章……ということで、後の展開は続編にて。


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